それは、何の変哲もない平日の夜のことでした。夕食の洗い物を終え、キッチンをきれいに拭き上げたつもりなのに、なぜか蛇口の根元にだけ小さな水たまりができていることに気づきました。最初は拭き残しかと思いましたが、翌朝も同じ場所に水が溜まっています。どうやら、我が家の蛇口は静かに、しかし確実に反乱を起こし始めたようでした。インターネットで調べると、原因は内部のパッキンの劣化らしいことが分かりました。写真付きで解説されたDIYの修理記事を見て、「これなら自分でもできそうだ」と安易に考えたのが、私の格闘の始まりでした。週末、ホームセンターで交換用のパッキンとウォーターポンププライヤーを購入し、意気揚々と作業を開始。まずは基本の止水栓を閉め、蛇口のハンドルを外しました。ここまでは順調でした。しかし、問題はスパウトを固定している大きなカバーナットでした。長年の水垢で固着しているのか、私の力ではピクリとも動きません。全体重をかけてプライヤーを回そうとしますが、ナットが滑ってシンクに傷をつけてしまう始末。汗だくになりながら三十分ほど格闘した末、私は完全に途方に暮れてしまいました。結局、プライドを捨てて近所の水道業者に電話。すぐに来てくれた作業員の方は、専用の工具を使い、私が苦戦したナットをいとも簡単に緩めてみせました。原因はやはりパッキンの劣化で、交換作業はあっという間に終了。プロの技術を目の当たりにし、自分の無力さを痛感しました。修理代は一万円ほどかかりましたが、あのまま自分で続けていたら、蛇口を壊して更なる出費を招いていたかもしれません。この一件で、私は「餅は餅屋」という言葉の意味を、身をもって知ることになったのです。